†兆†

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  「あぁ。ロアは此所で一人で祈る事があったから、迎えに来ていた。」 聖殿に留まっている時は 祈りをする為に 聖本殿に一人で向かう事が 多かったロア。 何を祈っているのか、 当然、クロアが訊ねた事はない。 だが、 常に上に立つ者として 命の決断を 迫られる事があるロア。 己の意志で 他者の命を奪うと決意すれば、 “神族”として 己の手を 汚せないからだけではなく、 自ら進んで 己の手を汚さない事により、 卑怯者の汚名として 命の責をロアは背負う。 その決断に、 如何なる理由や 原因があろうとも、 己が導いた結果から 目を逸らさず、 自身が赦される事も、 自ら赦しを求める事もしない ロアの祈り。 それは、 おそらく、 自分以外の者の為。 犠牲となった者達の為に、 祈っていると クロアは判っていた。 「そうか…私はここに祈りに来てたのか…。」 クロアの言葉に 記憶の補足を見つけ、 納得するロア。 そんなロアの手を 不意にセキルがキツく握り、 「ッ…。」 クロアに向いていた意識が セキルの方へと 向けられてしまう。  
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