†兆†

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  「私の事は何か思い出して下さいましたか?」 優しい笑顔での セキルの問い掛け。 「…セキル…の、事は……まだ……。」 答えながらロアは、 沈んだ声になり、 「その………すまない……。」 溢れてしまう謝罪の言葉。 他の記憶は夢として 幾つもの視て 思い出しているのに、 セキルに関する夢だけを 視ないと思っているロア。 本当は 既に何度も視ているのだが セキルの事だけを ロア自身が無意識に消していた。 「仕方ありませんね。」 苦笑気味に呟き、 謝罪するロアの手を セキルは軽く引き寄せると、 「此方へ…。」 「え?」 聖殿の出入り口でもある 大扉の方へと歩き出す。 見上げる程に大きく、 重厚で、 一目見ただけで重圧的な扉。 それは、 セキルが近付くだけで 内から外に向け、 中心の境から両開きに 大きく開かれる。 途端に拡がる広大な空。 真っ直ぐに 何処までも抜ける緑。 聖殿、聖域から出る為の道。 「―――――ッ。」 眩しい日の光に照らされた 美しい光景は、 ロアの願いを掻き立てるモノ。  
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