†兆†

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  「え!?…えと…ク、クロア?」 「ここには今、お前だけだ。」 キツく抱き締めた腕の中で 戸惑っているロアへ クロアが告げる言葉。 「俺の腕の中…この中に居るのはお前、一人だけだ。」 ロアの視界を塞ぐように 胸に顔を埋めさせ、 「お前以外は誰も居ない。誰も何も聞いていない。何も言わない。俺も含めて…お前だけの居場所だから…何を言っても構わない…。」 ただ、温もりを与えながら 優しく真摯に言い聞かせる。 それは、 一人でセキルの事を 抱え込もうとするロアの心を 一人にせず吐き出させる クロアの願い。 “クロア”の、 “恋人”の腕の中と云う たった一つの居場所で、 一人ではないけれど、 一人と同じであるのだから、 何も我慢する事は無いと 弱音を吐き出させるクロア。 側近であり、 恋人であるクロアが たった一つ、出来る事。 「ッ…。」 抱き締めたロアの華奢な肩が 小さく震える。 何度も、何度も、 声を押し殺そうと 息を呑む気配が伝わり、 「………クロアと、…いたい…ッ!!」 漸く上がる掠れた声。  
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