†兆†

31/39
前へ
/519ページ
次へ
  「昔はよく、私が兄上に抱き締められていましたが…。」 ロアが眠りに着くまでの 他愛ないセキルの思い出話。 ロアは固く瞼を閉じ、 怯える気持ちを クロアとのやり取りを 思い出す事で抑え込み なんとか眠ろうと意識を閉ざす。 そうして、 「…それで、兄上は………お休みなさい。兄上。」 話の途中で言葉を止めて、 腕の中のロアへ 静かに呟くセキル。 普段よりも時間を掛けて セキルの腕の中で 浅い眠りに着くロアを、 セキルは深い愛情の 眼差しで見詰め、 切ないほどに大切に 抱き締めていた。 ――――― 明るい光が差し込む寝室内。 両脚の動かない少年―ロア―は 寝台の上に身を起こし、 冷たい無表情で 淡々と無関心に 膝の上に広げた本を読んでいた。 「兄上、具合はいかがですか?」 そこに現れる、 まだまだ幼い印象の少年。 9歳になったばかりの ロアの弟―セキル―。 成人の儀の直後、 暫く病で臥せり、 両脚が動かなくなったロアを 心配し、見舞いに訪ねて来た セキルの姿に、 「セキル。」 本を無関心に見詰めていた 冷たい無表情から一転して、 柔らかな笑顔を綻ばせるロア。  
/519ページ

最初のコメントを投稿しよう!

223人が本棚に入れています
本棚に追加