†兆†

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  ――目を覚ますと、 「ッ!!」 薄暗い室内で 間近にあるセキルの寝顔。 「あッ…ッ……ふッ…ヴ……。」 ロアは上がりそうになる悲鳴を 咄嗟に両手で唇を覆う事で 押し留め、 強張り震える体を必死に動かし、 眠るセキルを起こさぬように なんとか寝台を抜け出した。 そのまま、 寝室から中庭に続く 硝子戸を抜け、 深夜の中庭に出ると、 「う゛………ぁ………ァ…。」 生垣の影に蹲り、 嗚咽に近い声を溢す。 目覚めた時、間近にあった セキルの寝顔。 それを目にした瞬間に 溢れ出た“夢の記憶” 両脚に怪我を負った直後の自分。 まだ、歩けなかった頃の記憶。 深い絶望と喪失に満ちた中で 弟―セキル―だけを 護りたいと願う気持ち。 今、ロアの中にある 全てと真逆の心と記憶。 「どう…して…?」 混乱する思考の中で 溢れる呟き。  
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