†重†

9/46
前へ
/519ページ
次へ
  「あまり、相手をしてやれなかったからな。」 聖主はロアが幼い頃から 側に居たがった理由を指摘し、 自嘲に近い笑みを溢す。 “聖主”と云う立場ゆえに 親らしい事が出来ない彼。 許される事と云えば、 側に居る事のみ。 事によれば見守るどころか、 自らの手で我が子を 犠牲にしなくてはならない地位。 それが “聖主”と云うモノ。 「仕方ありません。父上の御公務はそれだけ重要なものなのですから。」 ロアの中では “聖主”と“父”は 別の者としての認識であったが 父の仕事の重要性は 理解できている言葉。 思い出したくない事を 思い出さないように 認識の掏り替えを 無意識にしてしまっているロア。 その事を 自覚させなくては 記憶は戻らないと 分かっているが、 そうするには、まだ、 思い出す必要のある記憶が 多くあった。 そんな中、 「その指輪は…どうした?」 ロアと共に午後を過ごす為に 公務を早めに終わらせようと 執務机に戻ろうとした時、 ふっと目についたロアの右手。 その薬指にある指輪に気付き 訊ねると、 「クロアが貸してくれました。」 嬉しそうに微笑み、 ロアは応える。  
/519ページ

最初のコメントを投稿しよう!

223人が本棚に入れています
本棚に追加