†重†

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  クロアがロアへ 貸したと言う指輪。 クロア自身の紋章である 十字と剣が組み合わされた印の 刻まれた銀製のそれ。 聖主はその指輪を暫く見詰め、 「お前は…。」 「はい。」 「いや、……そこに居なさい。」 何かを言いかけ、 一言だけ残し、 聖務室を出て行ってしまう。 そうして再び、戻って来ると、 「これを付けていなさい。」 小さな箱をロアに手渡す。 蓋を開けると中には、 紺の天鵞絨の上に、 純銀にロア自身の紋章である 睡蓮が刻まれた イヤカフが入っており、 「これをですか?」 特別な時以外は 装飾品を身に付けないロアは 何故、 聖主が急にイヤカフを 渡して来たのか分からず、 不思議そうに小首を傾げる。 だが、 聖主はロアの様子には構わず 手早くロアの左耳にイヤカフを 付けてしまうと、 「外さないようにしなさい。」 困惑するロアに優しく告げ、 「私の仕事が終わるまで、寝ていると良い。」 それ以上は イヤカフの事には触れず、 ロアが何か言葉を発する前に 公務に戻ってしまう。 聖主に外すなと言われた以上は 身に付けていなければならない イヤカフ。 ロアは その意味が分からないまま 大人しく聖主に従い、 後は、夢を視ない事を願いつつ 聖主の公務が終わるまで 寝椅子に横たわった。  
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