†重†

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  そうしていると 不意に 聖本殿の大扉が動く気配を見せ ロアとフィリルが 視線を向けると…、 「兄上?」 「セキル…。」 クロアと共に聖殿を出ていた セキルが幾つかの書類を片手に 先に帰宅する。 「こんな時間に…“クロアの出迎えですか?”」 私室に戻って居る筈の時間に ロアがフィリルと二人だけで 聖本殿に居る事を一瞬、訝しみ 直ぐに 理由を察し問い詰める。 表向きは柔らかな笑顔で セキルは椅子に座るロアの 目の前にまで来るが、 「その…。」 ロアはセキルと対照的に 表情を翳らせ、 声を詰まらせる。 「弟の出迎えはなさらないんですよね?」 「ちが…。」 「違うんですか?」 「ッ―。」 穏やかな口調での 優しい追い詰め。 セキルから顔を逸らす代わりに 眼を逸らしてしまうロア。 「兄上…。」 そんな反応に セキルの空いている方の手が ロアの左頬へ伸ばされ、 触れた瞬間、 スッ―と セキルの笑顔が消えた。 “無” 息も気配も感情も 存在を感じるモノ全てが 消えるセキル。 ロアの傍らで 二人の成り行きを警戒していた フィリルにも分かる、 唐突なセキルの変化。  
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