†重†

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  ロアの管理している居住棟の隣、 セキル自身が 個人で使用する許可を聖主に 与えられている棟の廊下を セキルは無言のまま足早に 私室に向かって歩き続ける。 そのまま部屋に辿り着くと やや乱暴にも見える仕草で 部屋の扉を開き、入室し 閉じた扉を背に立ち尽くす。 「…………………………。」 「…………………………。」 「…………………………。」 言葉もなく、 ただ、深く俯いたまま、 手にしていた書類だけが、 慌ただし気な音を立て 床に散り広がり落ちる。 兄、ロアの頬へ触れると同時に 指先に触れた左耳のイヤカフ。 今朝、聖殿を出る前に クロアがロアに渡していた指輪。 それがどんな意味を持ち、 何を示すモノであるのか、 分かっていながら 知らぬ振りをし、 直接、触れてしまった事で 突き付けられた現実。 大窓から差し込む 月明かりだけの 暗いままの室内。  
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