†重†

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  ―――深夜。 歩く衣擦れの音でさえ 響く静寂の夜。 ヒヤリとした 冷たい空気に満たされた 聖本殿地下“肖像の間” 手燭の灯りに照らされた 仄暗い石室の室内。 初代聖主を含む 歴代の聖主の肖像と、 神族の始祖と成った、 創世の神の四人の子の肖像が 飾られている場。 そこに、 深い思慮の面差しを浮かべ、 聖主は無言で、 たった一枚だけ、布に覆われた 肖像画の前に立っていた。 現在、記憶を喪い、 取り戻す為に 夢で記憶を視ている息子。 断片的ではあるが 幼い頃の記憶の一部を取り戻し、 成人前の性情に戻る事は 出来た現状。 だが、 ここに来て 行き詰まり始めた記憶の回復。 記憶の夢を視る事を 拒み始めているロア。 最初から記憶を取り戻す事を 拒む気持ちがロアの中に 存在している事は分かっていた。 そうでなければ、 記憶を喪う事など 始めからなかった。 しかし、 記憶の無いロアにとっては 過去に追い詰められた経験から 本能的に激しい拒絶と恐れを 抱いてしまう聖域、聖殿。 それ等から逃れる為には 思い出さなくてはならない記憶。  
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