†失†

6/41
前へ
/519ページ
次へ
  「何だ?」 「どうして、母上の所に向かうのに父上は駄目で、叔父上は良いのですか?」 背後のロアを見る事なく、 簡素に返事を返すミレアに 構わず問い掛けるロア。 夫であった聖主ではなく、 夫の実兄であったミレアだけが 母の過ごした場へと ロアを案内できる事への疑問。 「お前の父が“お前達の母には拘わらん”と、誓って居るからだ。」 「父上が…?」 亡くなった妻を思い出すのが 辛いと言う理由で 父が母の過ごした場へ 行かないのならば、 まだ、理解できるが、 ロアが知る限り、 母の思い出を大切に残し、 過去を時折、振り返る事で 亡くした事実を 受け入れる筈の父。 それが、 まるで、 母を拒むかのような 誓いが父にあると言う、 叔父の応えが信じられず ロアは言葉を無くしてしまう。 そうして 再び、無言の時が戻ると、 「此所だ。」 いつの間にか辿り着いていた 居住棟の中の、一つの扉の前。 見た目では ロアの居室の扉と変わらない その扉を叔父が開けると― 薄紅の薔薇に彩られた 可憐な光景が広がった。  
/519ページ

最初のコメントを投稿しよう!

223人が本棚に入れています
本棚に追加