†失†

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  自分の子供に 誰かと問い掛ける母。 幼い頃から ずっと、ずっと 繰り返してきた問い。 「ロアです。母上の…子供の…ロアです。」 6歳の少年の姿に成ったロアは 無垢であどけない少女の様な 微笑みを浮かべる母を 見詰めて答える。 「“ロア”…素敵なお名前ね!私もいつか、私の子供に素敵な名前を付けるのよ。」 噛み合わない会話。 自分の息子を目の前に 明るい笑顔で話す母。 「私が…母上の…子供…です…よ…。」 震える声。 必死に浮かべる笑顔。 ずっと昔から 繰り返してきたやり取り。 母はロアが物心つく前から、 自分の子供の事が 分からなくなっていた。 何かが原因で 心が壊れてしまっていた母。 そんな母に自分の事を 覚えて欲しくて、 思い出して欲しくて、 父に止められても 毎日、毎日、 母の好きな 薄紅の薔薇を持って 通っていた。 漸く、 自分の息子と 認識してくれたのは、 弟のセキルを産んだ時。  
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