†失†

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  「なのに…。」 弟を自分から護る為に、 迷うことなく選んだ選択。 過ちだと分かっていても、 愚かな事だと知っていても、 それしか術はなく、 後悔しながら下した決断。 それが、 「“生きている…。”」 消え入りそうな声。 感謝の響き等ではなく、 純粋な恐怖に満ちたそれ。 助かる筈のない 自分が生きている事への 狂気に近い混乱。 「私は…何なんだ…?」 一つの記憶を取り戻す度に、 生まれる幾つもの疑問と不安。 「私は…誰だ…?」 クロアの恋人だけで居たいのに それを赦してくれない 複数の記憶。 「クロア…。」 泣き縋る呟きに、 クロアの掌が ロアの頭に添えられる。 その手の動きに導かれ、 クロアを振り向くロア。 「お前だけが…。」 見つめ合う、 悲痛な哀しみに満ちた 深藍の瞳と 泣きたくても泣けない、 白月の瞳。 「私のモノだ…。」 自分自身すら分からなくても たった一つ、           コイビト 何も変わらず、確かな存在。  
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