†失†

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  ―――聖殿。 セキルに頼み、 聖主と再び共に過ごす時間を 用意してもらったロアは、 フィリルの付き添いも断り、 聖主と二人切りで 数日前にも一緒に廻った 聖主管理の居住棟の中庭を 散策していた。 『やっぱり…。』 父、聖主が棟と共に 管理している中庭。 その一角に植えられた 薄紅の薔薇を見詰め、 内心で呟くロア。 「父上。」 ロアの歩調に合わせ、 いつも後を歩いてくれる父、 聖主をロアが振り仰ぎ 声を掛けると、 「どうした?」 優しく穏やかな声と眼差しで 聖主は応じてくれる。 とても、 母の心を壊すような事を するとは思えない父の眼差し。 ロアは居た堪れず 反射的に視線を逸らしてしまい、 「母上の…。」 どう切り出して良いのか 迷いながら母の事を訊ねた。 「母上の部屋にあった薔薇は…ここで父上が育てられているモノですよね…?」 母の部屋に飾られていた 薄紅の薔薇。 ロアの部屋にも 毎朝、同じ薔薇を届けてくれる 父の姿を想いながら 指摘する言葉。 叔父は、まるで父が 母を拒むような誓いを 立てている言い方をしていたが、 母の部屋を見てしまえば 違うと分かる父の誓い。  
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