†失†

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  クロアの部屋の 数人掛けのソファー。 そこに、 聖主に送られ 自分の棟に帰ってきたロアは 一人で両膝を抱えて座り、 父、聖主に告げられた事を 考えながら、 クロアの帰りを待ち続けていた。 『記憶…。』 聖域、聖殿から出る為に 必要なモノ。 『記憶…。』 母との約束を守り、 弟を護る為にも 必要らしいモノ。 だが、 『思い出したくない…。』 同時に ロアにとっては 新たに増えた 恐怖の対象でもあるモノ。 『父上と…母上と…セキルと…叔父上に兄君達…。』 それでも、 これまでに思い出した 記憶を回想し、 『聖殿での事と…。私が…死…。』 「ッ…!!」 父の言う“必要な記憶”を 思い出そうとして、 一番、最後となる 自分の寝室での記憶を 思い起こし 息を呑み、身を竦ませ、 両膝を抱える腕に力が篭り 小さく蹲り震えてしまう身体。 膝の上に顔を伏せたまま、 無意識に クロアの指輪を求めて、 きつく右手を握り締める。 そうする事で強く自覚できる、 指輪の存在感に 「クロア…。」 縋る囁き。  
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