†失†

29/41
前へ
/519ページ
次へ
  神殿の仕事に関わり始めても 聖司官の事を理解できないまま 数日が過ぎた日。 爽やかな風が吹き抜ける 聖域の昼下がり。 聖殿の各棟を繋ぐ長い廻廊を ロアはセキルと二人切りで 歩いていた。 クロアが神殿に出て居ない日。 本来はクロアの代わりとなる フィリルが 傍に控えて居る筈だったが ―『父上と二人きりには成れても、私と二人きりにはなって下さらないんですか?』― と、セキルに 自ら進んで父と二人きりで 過ごした日の事を 示されてしまい、 フィリルの同行をロアの方から 断ってしまっていた。 聖本殿、聖棟、聖央塔、 各居住棟の周囲に広がる 聖殿の敷地の庭園を望む廻廊。 そこを 当てもなく歩いている途中で セキルは脚を止めると、 「兄上、此方へ。」 「え…?」 廻廊から庭園へと ロアを連れ降り立ち、 突然の事に 戸惑うロアの様子には構わず、 聖殿の庭園を歩き始めた。 「セキル、何処へ…?」 「兄上が昔はよく居られた場所です。」 聖本殿と聖央塔、 ロアの管理する居住棟の 三つに接する庭園を歩きながら、 向かう先を簡単に 説明するセキル。  
/519ページ

最初のコメントを投稿しよう!

223人が本棚に入れています
本棚に追加