†失†

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  そのまま、 セキルに連れられ ロアが辿り着いた場所は 庭園の終わりを感じさせる 一見、何もない、 草地と空が広がるだけの場所。 だったが、 ロアには、 淡い燐光を放つ境界線と 時折、薄い薄膜の 不可視の障壁が見えていた。 「ここ…。」 「兄上がよく立たれていた場所です。」 「え?」 見た限りでは、 何の境も無い聖殿の敷地。 しかし、 それを囲む 七芒星の障壁結界は 確かに存在しており、 【セフィロトの苗木】と云う 存在でもあるロアと 現聖主にしか 視覚として捉えられない 聖殿の結界。 「兄上は、此処に立たれて、よく聖殿の外を視ていました。」 「ここ……に………。」 セキルが知っている 昔のロア、兄の習慣の一つ。 兄は暇さえあれば 聖殿の環境線の前に立ち、 そこから見える光景で 外の世界を想像していた。 どこか寂し気で、 切なく、儚げに 結界の向こうに広がる草地と 空を見つめ続け、 未知である聖殿の外の世界を 一人で考え、想像する事で 世界に触れようとしていた兄。  
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