†失†

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  【セフィロトの苗木】と云う いつか世界の為に使われる 万能の道具としても 生まれた為に、 それを護る場である 聖殿から出される事なく 育てられ、 道具としての性から 自ら進んで何かを願う事も 望む事もなく、 聖殿の外に出ると云う 意識さえ持てなかった昔の兄。 それが、 今は全てを忘れてしまい、 ただ、聖殿の外に逃げる事を 考えるだけとなっていた。 「“見えますか?”」 「え?」 「聖殿の結界です。」 セキルの隣に大人しく佇み、 外を求めている眼差しで 境界線の向こうを見詰めていた ロアに問い掛けると、 セキルに見えていない事に 気付いていないロアは、 「うん…見える…。」 素直に頷き、 そっと結界の障壁へと 右手を伸ばし、 障壁へ触れる寸前で 「ッ……セキル?」 セキルにその手を掴まれた。  
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