†悲†

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  ディフェルが居なくなり 一人きりになった室内。 中央に置いてある 応接セットのソファーの上に 片膝を抱いて座るセキル。 ディフェルに 責められている間も今も ずっと脳裏に焼き付いている 壊れたロアの、 最愛の兄の姿が セキルの中で過り続けていた。 虚空を見詰める兄の虚無な瞳。 感情の消えた表情。 本心から望んだ訳ではない 兄の壊れた姿。 それ故に、 我を忘れて口走っていた本心。 「兄上を………」 幼い頃から大好きだった兄。 ただの兄弟として、 弟として大切に護りたいだけ 本心はそれだけ、 なのに…、 狂おしい程の愛しさが 胸を焼き尽くす。 「………愛さずにいられるなら…ッ」 『愛したい訳じゃない…ッ!!』   ―†聖主の宿命†― 自分の中に存在する それから兄を護る為にも 一度、 壊さなくてはならなかった、 追い詰めなくてはいけなかった 兄の心。 「―――――ッ!!」 後悔すると覚悟を決め、 壊すと決意していたセキル。 だけれども、 胸を引き絞る苦痛の後悔に 声には出さない嗚咽の嘆きが 心に響いていた。  
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