†悲†

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  「ロア、今日は新しい指輪を用意してきた」 上着の懐から 細く繊細な作りの 銀の指輪を取り出すクロア。 「今の指輪だとロアの指には、少し不似合いだろ?」 クロアが貸すと云う名目で 渡した日から、ずっと ロアの右手の薬指に 填められたままのクロアの指輪。 ロアの繊細な指には 少しだけ無骨にも見える クロアの紋章の刻まれた指輪を ロアの指に似合う物にする為に ロアの指輪を クロアは用意していた。 勿論、 クロアの紋章の刻まれている 恋人への誓いの贈り物。 それを 新たに贈ろうと クロアがロアの右手を取ると、 「ロア?」 ロアは固く右手を握り込む。 そうして 今の指輪を外せない様にすると 「このまま…」 握り締めた右手を護るように 左手で包み込むロア。 「お前の填めていたこの指輪がいい…」 そのまま告げる、 ロアの意志。 クロアに対する想いで生じる ロアの心の情動。 例え、 自分の為に用意してもらっても クロアの使い続けていた 無骨な指輪の方が良いと 訴える恋人の心。 それに、 「なら、指輪はそのままにしよう」 愛おしむ微笑みが 浮かんでしまうクロア。  
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