†悲†

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  あの頃は一体、何が あの明るく穏やかで 優しかった兄を、 そこまで変えてしまったのか 分からなかったが、 何かが兄の心を壊し、 感情を消した事だけは 分かっていたセキル。 心と感情の一部を無くし、 情動の変化を まったく露にしなくなった兄が 自然に微笑んだ瞬間の姿。 恋人のクロアに触れられた事を 心から喜び、幸福に溢れた 煌めきのように、 一瞬だけ浮かんで消えた 本物の笑顔。 それだけで、 兄に取ってのクロアの存在が どれだけ大切なのか、 セキルには伝わった。 主従関係であり 従僕である筈のクロアと 恋人同士でもある兄。 それを完全に納得し 受け入れるには まだまだ子供だったけれど…、 あの幸福な瞬間を 兄の心に生み出す、 二人の関係を認め 護りたい、護ると この時、 セキルは確かに 自分の心に誓った。  
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