†悲†

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  その日、 聖界では珍しく 朝から小雨の天候だった。 ―――神殿、聖司官執務室。 薄曇りの空と 静かに降り降りる小雨のせいで どこか普段よりも しっとりと落ち着いた 雰囲気の室内。 「フィリル、これを中央、智天まで届けて欲しい」 フィリルはレティスに 差し出された書類を 受け取りながら、 「あ…はい……智天…ですね」 何故か 気持ちの沈んだような声を 出してしまっていた。 「どうした?」 普段は どの様な事態でも 基本的に のんびりとした態度を壊さない ロアの直属の部下フィリル。 そのフィリルの珍しい様子に レティスが声を掛けると、 「いえ…んー何と言いますか、智天の補佐ライル殿が何故か苦手で…」 自嘲気味の呆れた苦笑で 他者に対して気さくで 懐こい性情のフィリルにしては、 本当に珍しい内容を口にする。 “中央軍部筆頭、智天” 智天使長補佐ライル。 フィリルの示す彼の相手は クロアの実兄であり、 数年前に聖主とロアに 直接、ハッキリと 次期聖主ロアと、 次期聖主側近クロアの 関係について 追求の言を述べた事もある相手。  
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