†悲†

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  雨が降る。 聖域、聖殿にも 絶え間なく、 静かに、 癒しと潤いの 聖界の雨が、   シキ 降り頻る。 薄曇りの空と    ケブ 水煙で煙る聖殿の景色。 まるで  モヤ 朝靄に沈んでいる様にも見える 光景の中、 ロアは一人、中庭で 雨に打たれながら ボンヤリと立っていた。 自分自身でも何故、 雨の中に立って居るのか 分からなかった。 ただ、クロアがフィリルに 呼ばれて、 クロアの部屋で一人、 クロアの帰りを待っている間、 なんとなく眺めた窓の向こう。 降り頻る雨の景色に喚ばれ、 導かれたかのように、 気付けば外に立っていた。 空から降り降りる 冷たい水滴。 銀月の髪を、白磁の頬を、 濡らして行く 優しい雨。 それを受け止めるように 両腕を差し伸ばすロア。 水源を求めるように 天を見上げ、 薄曇りの空を見詰める 白月の瞳。 雨の景色に 全身を委ねるように 空虚な意識を 水滴の刺激に任せた瞬間、 ―『あにうえッ!!』― 雨の記憶が流れ込んできた。  
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