†悲†

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  ――裂ける、 夢と現の狭間。 「ッ!?ぁ…ッ!!」 幻視の記憶に誘われるように 雨の中庭を彷徨い歩く ロアの足許が滑る。 水溜まりの弾ける 激しい水音を立てて、 地に転ぶロアの体。 「……………………」 泥に汚れてしまった体を 地に両手を着いて支え起こし、 立ち上がろうとした時、 視線の先に留まる、 父の…、 聖主の結界の障壁。 それが視界に入った瞬間、 ―…やく……………いとッ!!― 「ぁ……」 脳裏に突如、 ―…やくッ!!…げ…いとッ!!― 誰かの声が響き、 「あ…」 ―はや…ッ!!…げな…とッ!!― その声に圧され、 無意識に両手を伸ばし ロアは聖主の隔離結界に触れた。 ―はやくッ!!…げないとッ!!― 途端、眼前に拡がる 幻視の夜空に浮かぶ6つの階層。 いつか視たことのある 聖域の端の記憶。 ―はやくッ!!逃げないとッ!!― 「あッ…!!」 自分の声と共に弾ける、 ―早くッ!!逃げないとッ!!― 「あぁッ!!」 最悪の記憶。 記憶に弾かれ、 両手を結界の障壁に 叩き付けるロア。 壊れた心に絶望を満たし、 脳裏で叫ぶ自分の声。  
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