†悲†

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  聖域から逃げ出した時の記憶。 モノ、道具として 無理矢理に生かされ、 死すら望めぬ    サダメ 大罪の宿命を与えられ、 護りたいと願う望みさえ 奪われた時。 父の姿をした聖主が 絶望の現実を突き付けてきた、 あの時、 心が本当に壊れる前に ロアは一度、 聖殿から、聖域から 逃げ出していた。 一体、どうやって、 聖殿の結界を抜けたのか、 覚えていない。 何故、 甦させられたばかりの体で 走れたのかも知らない。 ただ、ただ、 この狂気に満ちた 絶望の現実から 逃げるために 必死だった事だけは 今も覚えている。 走り過ぎた体の呼吸が苦しくて 咽が焼け付く痛みを放つ程に 息が上がって、 それでも 裸足で走り続けて、 何度、転んでも、 立ち上がって、 聖域の端まで走り続けた。 背後から追ってくる 聖主の気配が怖かった。 信じていた世界が、 崩壊していくような音が 聴こえていた。 生まれ育った聖域が、 恐ろしくて堪らなかった。 美しい世界のために 大罪の狂気すら認めてしまう。    †聖なる領域†  
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