†始†

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  ――時は戻り。 クロアは眠るロアの姿を 過去を思い出しながら 静かに見詰める。 月明かりが射し込む クロアの部屋で眠るロア。 小雨の降り続ける中、 クロアが見付けた時には ロアは雨に濡れながら、 中庭の最奥で結界の障壁を 叩き続けていた。 おそらく、結界の外に 逃げ出そうとしていた姿。 クロアが声を掛けると 固まったように動きを止め、 ―『クロア、助けて…』― 泣いている表情で 縋った言葉。 記憶を喪ってからも 喪う前も どんな事があっても 決して口にしなかった 救済を求める言葉。 それを始めて口にしたロア。 それほど追い詰められ、 追い詰めてしまっていた ロアの心。 眠るロアの寝顔を見詰め クロアは静かに考える。 クロアにとって、 命を掛けた忠誠を誓う たった一人の主であり、 最愛の恋人。 ロアを救う為に自分が出来る事。 それを決意する為に クロアは主の寝顔を見詰め 静かに覚悟を募らせる。  
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