†始†

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  月の光で明るい夜だった。 その深夜、 クロアは眠るロアを揺り起こす。 「ロア…ロア…」 「ん…クロア?」 記憶が殆ど戻ったおかげで 夢に魘される事が少なくなり 夜はきちんと眠る事が 出来るようになっていたロア。 魘されていた訳でもないのに クロアはロアを起こし、 「中庭の散策に少しだけ付き合ってほしい」 そう言って ロアを深夜の中庭に連れ出す。 中天に昇る満月の明かりが 聖域の夜を照らし、 美しい幻想夜の世界。 クロアはロアを 中庭の東屋まで連れて来ると、 そこにロアだけを座らせる。 「ここでの記憶を何か覚えているか?」 夜の静けさに溶け込むような クロアの声。 「ここ…の…」 ぼんやりと 周囲とクロアを見詰め 呟くロア。 「そう、ここでの…こんな満月の夜の思い出だ…」 ロアの前に片膝を立て、 跪きながら、 クロアは酷く優しく甘く ロアに微笑み掛ける。 「ここ…「ここで…」 クロアに告げられた思い出を 思い出そうと呟くロアの声に 重なるクロアの声。 ふっと― 見詰め会う 白月と深藍の瞳。 「私が……」 ロアの月色の瞳と 「俺が…」 クロアの夜色の瞳。 「「“告白”」」 重なる声と 「………した」 「………された」 擦れ違う言葉。 ロアの言葉から始まった クロアとの恋人関係。  
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