†始†

15/43
前へ
/519ページ
次へ
  クロアの部屋を出て、 フィリルと対面したロアは どうしても 一人で済ませたかった 個人的な用事を済ませる為に、 自分の棟内を忙しく廻っていた。 昨夜、 クロアから申し込まれた 婚約の誓い。 それに呼び起こされた 自分の心。 ただ逃げる事しか考えられず、 弱いだけだった自分。 酷く情けない自分を変える為に 先ずは自分に出来る事を 考え探し始めたロア。 正直なところ、 今はまだ、何をすれば良いのか 分からない事ばかりであったが ロアは自分の右手を見て、 脚を止める。 右手の薬指に填められた シンプルな細身の銀の指輪。 昨夜、 正式な婚約はまだ、結べないと 訴えたロアの応えに クロアが応じてくれた約束の証。 本来は互いの紋章が刻まれた イヤカフを交換するのが 正式な婚約となる聖界。 正式ではないその代わりに ―『指輪を交換しようか、ロア』― ロアが填め続けていた クロアの指輪と クロアがロアに 中庭の噴水の場で贈ろうとした あの時の指輪を交換していた。 どちらも クロアの紋章が 刻まれている物であったが、 ―『俺の気持ちが変わらない証で、指輪を填め続けている限り、ロアの気持ちも変わっていない証になるだろう』― クロアがそう言って、 交換してくれた婚約指輪。 それを見詰めて、 ロアは秘かに指輪に口付ける。 「クロア…」 『まだ…お前の気持ちに甘えてばかりだが…』 切なさに溢れた呟きと共に 『強くなって、必ず…お前の想いに応えるから…』 クロアの想いに誓う想い。 それを胸にロアは 今はまだ、見えない 己の宿命に立ち向かい始める。  
/519ページ

最初のコメントを投稿しよう!

223人が本棚に入れています
本棚に追加