†始†

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  聖主との対面を終えた後、 ロアは数日振りに自室に入る。 何も変わっていない、 長年、 自分が過ごし続けている居室。 中央に置かれている応接セット。 大窓の連なりとなっている 入り口正面の壁。 そこから望む中庭の光景。 視線を右に移して、 片壁一面を覆う大きな書棚。 左に移せば、 小振りのチェストに 純白に銀と金の 細やかな紋様が入り、 昼は金が日の光を、 夜は銀が月の光を 部屋の隅々まで運ぶ細工の 壁紙が眼に付き、 華美ではないが 広い空間が明るい光に満ちた ロアの部屋。 『ここまでは…まだ…』 入室したまま扉を背に 室内を見渡し、 気持ちを落ち着かせ 心の中で一言、呟くと 左手の壁にある 寝室に続く扉を見詰める。 そこにある記憶の思い出。 脳裏に過る暗い狂気を 抑え込み、 居室から寝室へ続く扉を 開けるロア。 居室と同じ壁紙を使った、 大きく重厚な寝台が中央に 置かれているだけの寝室。 室内の光景と重なり飛び込む、 記憶の幻影に立ち竦むが、 『駄目だ!!ちゃんと見て考えろ!!』 逃げ出したくなる気持ちに耐え 目の前の光景を見据える。  
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