†始†

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  クロアは 当然、心配したけれど、 反対はしないでくれた、 ロアの決心。 それだけでなく、 ソファーで眠る準備を手伝い 眠りに着くまで傍に居てくれた クロア。 ロアはそんなクロアの優しさを 感じながら、眠りに着き、 自分自身のモノではない 記憶の夢を視た。 記憶を喪った日から 自分の記憶と共に ずっと見続けている “不可解な夢。” それが、 自分の記憶ではないと 頭で理解しているが、 ロアの中での直感が、 自分の記憶だと訴えている夢。 その内容を思い出し、 目の前の書籍の一冊を 適当に捲る。 「…………………………」 「…………………………」 卓上灯の明かりのみの室内に 静寂と紙面を繰る音が 交錯する間が暫く流れ、 「やっぱり…」 ロアの小さな呟きが ぽつりと上がった。 「あれは元始エノク語だ…」 “元始”とは 物事のはじめであり 始まりである事。 “エノク語”とは、 聖界での言語の総称。 夢の中で視た書面の文字が 聖界の言語の 起原文字であった事を 確信したロア。 「でも………何故…?」 何故、自分がそんな時代の夢を 自分の記憶として視るのか 分からないロアの 不審に満ちた声だけが 暗い室内に静かに響いた。  
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