†始†

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  ―――聖殿。 ロアは数冊の書籍を片手に持ち 自分の居住棟の最奥に続く 廊下の途中で一人佇み、 最奥の廊下の先を静かに 見詰め続けていた。 レティスが与えてくれた 助言を含め、 記憶を取り戻す為に、 改めて、 聖司官の公務と 自分の置かれている 周囲の環境を 見詰め直し始めたロア。 その日々の中で気付いた 幾つかの違和感の一つ。 幼い頃から暮らしている 居住棟の最奥に、 何故か、行く事が出来ない自分。 向かおうとしても、 今の様に脚が止まり、 進めなくなってしまうロアの躰。 『何故…行けない……?』 使用した事が殆どない 居住棟の最奥に 不自然に進めない原因は 考える必要もなく解っていた。 『思い出せない記憶の思い出が、何処かに存在しているから…』 だが、 それを敢えて思考する事で、 進む事の必要性を強く自覚し、 ロアは前に進む切っ掛けを 得ようとする。 『進め…ッ』 自分自身に強く言い聞かせても まるで廊下と一体化した様に 全く動かないロアの脚。 「ッ…」 何より、 無理矢理に進もうとすると、 胸に言い知れぬ不安が 沸き起こり、 軽い動悸が走った。  
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