†始†

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  居住棟の自室の大窓の側に立ち うっすらと透ける自分の全身が 映し出された窓硝子越しに 中庭を眺めていた。 白月の瞳に長い銀月の髪の 見馴れた自分の姿。 何かを考えている訳でもなく、 注視すべき何かが 窓の向こうに在る訳でもなく ただ中庭を視ているだけの自分。 だったが、 『……髪の長さが……違う?』 不意に、 硝子に映る自分の髪の長さが 違う事にロアは気付く。 本来は腰までの長さである筈の 自分の髪。 なのに、 硝子に映る自分の姿の髪は それよりも遥かに長い 膝丈の長さ。 『なん……』 たった一日で そんなに伸びる筈がない髪。 自分の姿の突然の変化に驚き 戸惑うロア。 直ぐに 真偽を確認しようと 視線を自分自身に向けかけた時、 硝子に映る部屋の扉が 外から開かれる光景が見え、 反射的に扉の方を振り返ると、 ―“兄君”― 『え……?』 訪問者の姿に待ち侘びた声で 駆け出す自分と、 扉の向こうから姿を顕す 長い聖銀の髪に紫水晶の瞳。 夢の記憶の中だけにしか 存在しない訪問者の姿に 瞠目し窓辺に立ち竦むロアと、 一人だった自分が二人に別れた。  
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