†始†

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  『ッ!?』 ―“お帰りなさい”― 突然の状況に息を呑むロアと、 異変に全く気付いていない もう一人の自分。 よく見れば、 駆け出した自分の方の髪こそ 膝丈の長さであり、 『これは……夢だ』 直ぐに周囲の現状と 訪問者が目の前に居る 理由を察し、 ロアは、 自分が置かれている状況を 理解した。 原因は分からないが、 もう一つの記憶の夢に 入り込んでいるロアの意識。 ―“淋くなかったかえ?”― ―“セラフが居てくれましたから、少し淋しいだけでした”― その場にロアが居ながら 交わされる会話。 おそらく、 数日振りの再開であろう兄の 愛おしいげな問い掛けに、 柔らかな声と口調で 明るく応えている自分。 ロアの位置からでは 訪問者の相手しか 表情が判らなかったが…、 ―“本に少しだけかの?”― ―“ッ………それは…答えません”― 相手がもう一人の自分、 リデアの頬の位置に 手を添えると、 リデアは軽く俯き、 切なく戸惑う返答が上がった。 “本当は淋しかった”と、 兄を困らせない為に 素直な気持ちを口に出さない リデアに甘く微笑む相手。 表情は見えなくても分かる リデアの兄を慕う気持ち。  
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