†始†

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  ―“誠、お前は…”― ―“え?……ふッ…兄君?”― 呟きと共に 相手はリデアを抱き締め、 ―“我は淋しいと思うたよ”― リデアの耳許で 甘く心に絡まる様に告げる言葉。 リデアだけでなく 二人の会話を聴いている ロアの心まで捕らえ 惑わす相手の声に、 『ッ…聴くな!!』 ロアは咄嗟に耳を塞ぎ、 ―“私も…――――――です”― リデアは相手の腕の中に、 身を委せた。 すると、 『えッ…?』 相手は大人しく腕の中に居る リデアを見詰める眼差しを上げ、 二人のやり取りを視ている ロアへと唐突に視線を向ける。 『見えて…』 はっきりと重なる 自分と相手の紫水晶の瞳の視線。 二人に自分は見えていないと 思っていただけに驚くロアを 相手は真っ直ぐに見詰め、 『!?』 ヒソリ―と、 密やかに冷たく、 妖しい甘やかさのある 蠱惑の微笑を浮かべて見せた。 ――――― 「―――――ッ!!」 身が凍り付きそうな夢から 飛び起きると、 バサリ―と 読み掛けだった古い記録書が 長椅子のソファーで 眠っていたロアの上から 床へと滑り落ちる。  
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