†終†

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  “名も無き者” それが示すモノはたった一つ。 その問いにロアは、 「いいや…」 否定を含む呟きを溢し、 「全て、古の老獪等の下らん茶番だ」 無情な程、 冷淡な声での吐き捨て。 「故に…」 続けて、 口調を柔らかく穏やかなモノに 変えると、 不意にセキルの手を強く握り、 「ッ!?」 ロアの優しく、 力強い温もりを伝える 手の感覚に 軽く瞠目するセキル。 「さっさとこの件を片付け、お前との決着を着けよう」 本当は第2階層に着いた時から ずっと緊張しているセキル…、 弟を 互いに繋いだ手を強く握る事で 兄として励ましながら 始まりの終わりの決意を ロアは告げる。 この事件が 初陣ともなるセキル。 無事に帰れる保証など無い状況。 それでも、 無事に事件を終わらせ 帰ると決め、 宿命に狂う前の兄弟関係に 自分達を戻すと断言するロア。 もう記憶が戻っても、 セキルに昔のような 感情を見せる事はない兄。 互いの顔を見る事なく 歩きながら交わされる会話。 だが、 掌から伝わる 確かな兄の優しさ。 それに、 セキルは、 成人前の頃のどこか頼りない 弟の面差しを浮かべ、 「はい…兄上」 素直な心で 兄に頷き返した。  
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