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引き摺られる意識の闇の中、
遠くで雷鳴が聴こえた気がした。
―『本に憐れな事よ―』―
聴覚のみが残された
ロアの意識に
流し込まれる緩やかな囁き。
―『偽りの宿命を負わされ、誠のセイを生きられぬとは…』―
憐れみに満ちた嘲笑の声。
ロアの持つ偽りを
見抜いている者の嘲り。
―『故に…我が細やかな救いを与えてやろうかの』―
闇の中で
一方的に与えられる言葉。
―『己が負わされた宿命の偽りを知り、誠に気付いた時、全てを忘れよ…。己を棄て新たなセイになるが良い』―
二つ存在いる次期聖主の資格。
正当ではない、
古からの縁により
与えられた聖主の資格。
その事実を知り、
現実に追い詰められた時、
己の持ち得るモノ全てを
忘れさせる為の暗示。
―『我が愛弟の為にも…のう………“リデア”』―
甘く、
どこまでも甘く、
意識に注ぎ込まれる誘惑の毒。
雷雨を連れ、
雷鳴と共に顕れた主。
“魔王”に浚われた時の記憶。
四肢の動きも、意志の思考も
視覚も封じられた闇の中で
無意識に植え付けられた暗示。
暗示と共に数年前の封じられた
その記憶を取り戻し、
ロアが目覚めると、
其処は一枚の姿見があるだけの
辺り一面、闇の空間。
姿見に映る自分と瓜二つの、
[初めまして……かな?]
「貴様………」
ロアと同じ姿で
智慮深い白月の眼差しと
穏やかな淡い微苦笑を浮かべる
「リデア………ッ」
魔王の弟であり
初代聖主“リデア”の
姿があった。
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