†水†

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  緩やかに身に馴染み、 溶け入るような優しい大気。 夢すら観る事のない 意識の喪失から ロアが目覚めると、 そこは見慣れた天蓋の光景。 「………………………」 聖域、聖殿にあるロアの寝室。 薄い紗の天蓋幕に囲われた 寝台の中。 大気に満ちる清浄な神気と 目の前に広がる光景で 意識を失っている間に聖域へ 帰ってきた事が判る目覚め。 「ロア様……?」 ロアの目覚めの気配に 天蓋幕の外から掛かる クロアの確認の声。 ほぼ同時に 寝室への出入りの扉が見える 片側一面だけの天蓋幕を上げ、 クロアが姿を見せる。 「お体の具合は如何ですか?」 目覚めても無言のままのロアに 心配した様子でクロアは訊ねる。 第2階層、反乱組織の隠れ家で セキルを魔獣から庇い 左肩に深い怪我を負い、 失血と身体への様々な負担から 心の臓の発作を起こしたロア。 左肩の怪我は 聖主の治癒によって 既に完治しているが、 ロアにしか分からない 完治後の左肩と腕の具合に、 発作後の心の臓の様子を 心配しているクロアへ、 「………問題ない」 ロアは左腕を軽く動かし、 素っ気なく返す。 だが、 それだけではなく、 「下らん心配をするくらいなら、手を貸せ」 身を起こそうとしながら クロアに命じるロアの言葉。  
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