†水†

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  記憶を喪い、取り戻す過程で 今、居る寝室に立ち入る事が 出来なくなっていたロアの、 喩え、記憶が完全に戻り 元の性情に戻ったとしても 心を心配し、 体調を訊ねる言葉に 気遣いを隠すクロアへ 心配の必要は無いと示す応え。 ロアに取っての聖域、聖殿、 そして、今居る部屋。 記憶を喪っている間は 常に心が追い詰められる程 恐ろしく、 逃げ出したくて 堪らなかった筈の場が、 『此処が私の居るべき場だ…』 クロアに支えられ 上体を起こし、 寝台を囲う天蓋幕を全て 上げさせると、 寝台の上から、 見慣れた広く簡素な室内と 大窓から見える中庭を見詰め、 何も感じていない心で ロアは呟く。 目覚め、 この場が何処であるのか 判った時には もう、何も感じなかった。 ただ、当たり前の事として この場が自分の居るべき場と ロアは認識するだけ。 「私はどれだけ意識を喪っていた?」 「4日程です」 意識を喪失していた期間を訊ね 「報告しろ」 「……はい」 意識を喪ってからの 占拠事件の事後の詳細を ロアは求める。 部屋を見渡しても、 無表情のままで ただ必要な事柄だけを求め、 何も感じていないような、 己の感情を自覚できない 元の主の姿に、 感情を自覚させたいと望む 自身の想いを圧し殺し、 側近として従うクロア。  
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