†水†

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  ロアの目覚めた翌日から、 数日の間は何事もなく、 ロアは聖域で療養しながら 本来の務めである 聖司官の任に復帰し、 クロアもこれまで同様に聖域で 聖司補佐官の務めを再開させ、 セキルも聖殿に留まりながら ロアの元を訪ねることなく ただ、中央組織へ通うだけの まるで嵐の前の静けさのような 平穏を装う日々が過ぎていた。 ディフェルとフィリルも ロアの記憶が完全に戻った 事件の後からは、 聖域を出ており、 聖主、ロア、クロア、 セキルだけしか居ない聖殿。 各々の目に見えない思惑を 微かに漂わせ、 平穏の中に、どこか暗鬱とした 緊張を孕む日々が過ぎるなか、 数日後の早朝。 クロアが 朝の目覚めと支度の為に ロアの寝室を訪れると、 そこには、 既に起床し、 一人で朝の禊を終え、 神族の正装の一つ、 純白に銀の縁取りが施してある 詰め襟の礼服姿のロアが 寝台の傍に立って居た。 「……ロア…様…?」 突然のロアの正装姿に驚く クロア。 「セキルを聖本殿に呼べ」 ロアはクロアの様子に 構う事なく、 部屋を出て行きながら すれ違い様に一言、命を残すと、 先に一人で聖本殿へと向かう。 ロアの正装。 聖本殿。 セキル。 それだけで伝わるロアの意志。 それが、 セキルとの決着を着ける 決意の朝だった。  
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