†水†

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  初めて触れた時の暖かさ。 伸ばされた小さな腕と小さな掌。 簡単には脱け出せない 哀しみの中に居た幼い自分に 向けられた無垢な笑顔。 柔らかな明るい金の髪と 晴れやかな蒼天を映した 青い大きな瞳。 今でも忘れない 小さな命との出会い。 七歳の時に母を亡くし、 最後の約束と共に託された 小さな、小さな弟。 ロアに取ってのセキルは 最愛の弟であり、 まるで我が子のような…、 自らの命に代えても、 護りたいと願う程、 本当に大切な存在だった。 弟の笑顔が嬉しかった。 広いけれど限られた場の 聖殿と云う世界の中で、 父と弟、 時折、訪ねて来てくれる 叔父や従兄に親戚の兄。 限られた世界で 限られた者としか 触れ合う事が出来ない 環境だったけれど…、 いつもいつも傍で笑ってくれる 弟が居たから、 寂しくなかった。 母との約束と弟の笑顔。 兄として、 幸福な未来を護りたいと願った。 方法は間違っていると 昔も今も解っている。 自分の命と引き換えにされた 未来を弟が簡単に 受け入れられる訳がないと 知っている。 それでも、 大罪となる罪業を セキルとその未来に 与えてしまうなら、 恨まれても憎まれても良いから 護りたくて、 宿命を知った16の日、 自ら命を絶ち、 死ねないのならば、 抗いの血道を生きると決意した。  
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