†水†

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  一瞬、何が起きたのか 分からなかった。 聖務室の天井とセキルの表情。 背中に当たる 柔らかなソファーの感覚。 身に掛かる重みに、 ―『ッ!!セキルッ!!』― 漸く事態が呑み込め、 ロアは叫んだ。 セキルを正気に返すための叫び。 必死の抗いと共に上げたそれは、 しかし、 ―『セキルッ!!正気に…ッ!!』― 自分を見下ろすセキルの、 弟ではない情欲の瞳に 身体が凍り、 言葉が、声が喉に張り付き、 ―『ッ……う゛………ぁ……』― 成長の過程で、 いつの間にか体格差が反転し 現実の力でも、 セキルへの対抗が 難しくなっていたロア。 なんとか抵抗しながら 助けを求めて、 ―『…………ち…』― この場にいる父、聖主に 視線が向かうが、 ―『…………………………』― そこに居たのは、 セキルとロアに必要な事として 現実を突き付ける為に、 成り行きを静観している 聖界の主。 父ではない聖主の姿。 ―『……う、ぁ…ッ』― 昔と違う、 新たな絶望がロアの胸を満たす。 当然、聖主同様に 叔父が助ける筈もなく、 セキルの手がロアの着ている 聖着の胸元に掛かる。 ―“クロア…”― 今は呼んではいけないと 自制していても、 本能がクロアの存在を求める。 泣けるならば、 きっと泣きたい苦しみの衝動が ロアを襲った。  
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