†水†

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  聖域で共に暮らしていた幼い頃。 兄の剣の稽古風景を 観ていた事はあっても 手合わせをした事はなかった。 「くッ!!」 何合目かの撃ち合いで上がる セキルの息を詰める声。 正面から攻め込むロアの 横凪ぎの剣を防いでも、 セキルの防御の反動を 動きの流れの軸として利用し セキルの背後に立ち位置を変え、 間を措かず 上段から降り下ろしの 追撃を仕掛けて来るロア。 それを何とか跳躍で避け、 追ってくるロアへ セキルから斬り込んでも 攻撃の勢いすらロアは利用し、 防御をそのまま攻撃に転じて セキルを追い込む。 相手側の動きを全て利用する ロアの剣。 相手が動かなければ、 恐ろしい程の殺気を滲ませ 攻撃し、 本能的な衝動で相手を動かす。 セキルの中には覚悟を決めても ロアに剣を向け、 本気で交えるくらいならば、 卑怯でも、情けなくても、 自身が反撃や防御をせず、 ロアの攻撃を受け入れれば 良いのかもしれないと 迷う気持ちがあった。 決闘は、 騎士の誇りと名誉を護る 闘いの一つ。 何より、 弟に剣を向けるのならば 自らの命の危険にさらす 覚悟を持って、 対等の関係で剣を向けるとする 兄の気持ち。 それらを 分かってはいても、 セキルの中に生じる迷い。  
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