†水†

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  一方的にも見えるロアとの 撃ち合い剣を、 セキルは何とか 攻めぎ合いの拮抗に持ち込む。 「ッ……」 「……………………」 既に息が上がっているセキルと 息一つ乱さずに無表情のまま、 決闘の開始から、 一言も声を発する事のないロア。 間近でセキルを見る事もない 伏し目がちの白月の瞳。 剣に宿る意志しか分からない 今の兄。 無心なのか、 無心を装っているだけなのか。 考えても仕方のない事が セキルの脳裏に過る。 そして、 無言の拮抗を崩し、 再度、撃ち合うロアとセキル。 横合いからのロアの攻撃を 剣を横凪ぎに振り切り、 セキルが防いだ、 その瞬間―、 「セキル」 「え…?」 セキルを呼ぶ、 ロアの落ち着いた声。 次いで、 目の前に迫る真剣の鋭い閃光。 『しま…ッ!!』 呼び声に応じた時に生じた 隙を衝き、 完全に空いたセキルの正面に 降り下ろされるロアの真剣。 避けられないと悟った 一瞬の間合い。 ふ―っと 終りを覚悟し無意識に浮かぶ、 セキルの笑顔。 ロアの脳裏に浮かぶ、 ―『あーにーうーえーッ!!』― 幼いセキル無邪気な声。 身を引き裂くような 心の叫びを殺して、 終りを告げる一閃と鮮血が 涙の如く、 ロアの眼前に散った。  
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