†祷†

2/41
前へ
/519ページ
次へ
  爽やかな晴れ空の下、 風に揺れる明るい金の髪。 空と同じ蒼天の瞳。 まだ、幼い少年は小さな体で 聖域の道程を聖殿へ向け、 息急き切らせて駆けていた。 ―「セキルッ!!走るでないッ!!」― ―「だいじょうぶでーすッ!!」― 遠くの背後から掛かる叔父の声。 それを無邪気な声で無視して 先を急ぐ少年、セキル。 初めて聖域の外に 叔父に連れられ出掛けた日。 セキルは初めて眼にした 外の世界の事を 早く教えたくて、 目的の相手、兄の待つ聖殿へ 急いで帰りたかった。 そして、 漸く見えた聖殿の正面。 入り口を兼ねる 聖本殿の開かれた大扉の所で、 風に揺れ、 日の光を受け仄かな金と銀の 不思議な色合いで輝く 長い銀月の髪。 聖殿の敷地の内と外を隔てる 境界近くに座り、 膝の上に本を乗せ、 読書をしている兄の姿を 見付けると、 ―「あにうえーッ!!」― ―「へ…?あ、セキル」― セキルの呼び掛けに 兄は顔を上げ、 ―「ただいま、かえりましたーッ!!」― ―「おかえ…ッ!!うわッ!!」― 勢いよく、 聖本殿前の短い階段を 駆け上がり、 兄に抱き着くセキルを ―「飛び付いて来たら、危ないよセキル」― 優しく受け止めてくれた。  
/519ページ

最初のコメントを投稿しよう!

223人が本棚に入れています
本棚に追加