†祷†

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  まだ、まだ、幼いセキルには 何故、兄が聖域、 聖殿の外に出てはいけないのか 分からなかったが、 ―「兄上は外に出たくないですか?」― 幼さ故の無知から生じた セキルの問い掛け。 外に出たくない訳がないのに、 向けてしまった 無責任な問い掛けに、 ―「外には出てみたいけど…、」― 兄は、 ほんの少し、考える仕草を見せ、 ―「この聖界に生きる全ての者が皆、幸せで笑顔でいる方が嬉しいなぁ」― ―「みなのしあわせですか?」― 兄の言葉の意味が分からず 首を傾げるセキルに、 ―「セキルが私の代わりに外に出てくれるから、平気ってこと」― そう、 明るく笑って応えてくれた。 自分の為ではなく、 他の為に生きている兄。 セキルが養子に出て、 聖殿から居なくなれば、 父と二人きり、 聖殿から一生、外に出る事なく 父の跡を継いだ後は たった独り、この広い聖殿で 生涯を終えるかもしれない。 そんな兄の事を思うと、 セキルは早く、大人に成って、 熾天使長になり、 兄を支え護る力に成りたかった。 ―「兄上、あのですね」― ―「うん」― いつもの出迎えを受け、 聖本殿の扉の場所で、 聖殿の外を並んで眺めながら 外の話をしていた7歳のセキルと 14歳のロア。  
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