†祷†

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  ―「ぼ……ぇと、私は兄上を…、」― ―「あッ!!」― セキルの言葉を途中で遮り、 ―「え?」― ―「“―――”」― 何者かの名を呼びながら、 満面の笑顔で 聖殿の外に駆け出して行く兄。 ―「兄…上…?」― 一瞬、何が起きたのか 分からないセキルの眼に映る、 夜色の髪と瞳を持つ、 涼やかな印象の長身の青年と 美しい月の化身のような美貌の 青年に成長した兄の姿。 美しく涼やかな 月夜の光景のように、 仲睦まじく寄り添う二人。 相思相愛の恋人同士の姿。 それに、 ―「ッ!!ぁ…兄上ーッ!!」― たった一人、子供のままの セキル。 ―「ま…ッ!!」― 兄の元に向かおうとして、 聖殿の外に出れない自分。 ―「嫌だッ!!兄上ッ!!」― 信じられない悪夢に 表情が蒼褪め、強張り、 ―「待って下さいッ!!…兄上ッ!!置いてかないで下さいッ!!」― 兄に置き去りにされる現実。 泣き叫ぶ幼いセキルへ、 ―「兄上ッ!!待っ…ッ!!」― ―「大丈夫だよ、セキル」― 長身の青年の傍らから、 兄は何故か、 優しく美しい微笑みを向けた。 そして、 ―「私はお前を置いて行かないし、私とお前は今みたいに昔と何もかもが変わってしまっても、兄弟の絆…愛は変わらないんだ」― セキルとロア。 時を隔てた、 兄弟の関係、絆の形を 語り掛ける。  
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