†祷†

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  暗く暗雲のたれ込めた闇の空を 美しい黒鳥が滑空し舞滑る。 欲望と悪夢、狂気、猟奇に 満ちた禍々しい世界。 果てのない闇色の空に 血のように紅いの満月が 狂いの混沌を照らし出す 終焉と罪業の地―魔界― 上空の彼方で常に鳴り響く 雷鳴を背に、 死者の光を奪い去る 忘却の河を越え、 絶望の嘆きに満ちた 腐海の森を過ぎ去ると、 突如、森の終りに顕れる 漆黒の宮殿。 鏡のように磨き込まれた 美しい黒石の魔殿。 闇の世界に在りながら 清廉とした静寂に包まれ、 繊細で荘厳な造りの 無人を思わす王宮の中、 黒鳥は迷いなく滑るように 謁見の間らしき広間へと入り、 音も無く、 黒鳥へ差し出される 白磁の細腕。 光を呑み込み輝く黒水晶と 深紅の天鵞絨で造り上げられた 玉座に、 肘掛けに片肘を着き、 緩やかに腰掛け、 足許まで流れるような流線を 描き落ちる、 癖ひとつない艶やかな漆黒の髪。 闇より深い、深淵の闇色の瞳。 白磁の細面に 薄い嘲笑を刷いた唇。 闇を纏い、 長身を思わす、 しなやかな体躯。 麗冷とした氷の華のように 美しい美貌の闇の主。 魔界に生きる名も無き神族 “魔王”  
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