†祷†

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  空を叩く羽ばたきの音を立て 差し出された魔王の腕に 降り立つ黒鳥。 聖界からネビアスの伝達を持ち 帰還した、 魔王自らが、 ネビアスに貸し与えたそれ。 艶やかな濡れ羽色の漆黒の躰に 墨を流したように長い尾。 血よりも紅い 石榴石のような深紅の瞳。 魔界の月を写し入れた 愛鳥でもある黒鳥を 魔王は愛おしむように見詰め、 「我が愛弟は変わらず…困り者よの」 ヒソリ―と 喜悦の笑みを浮かべる。 純然とリデアの復活を喜び、 弟を愛でる声。 「我等が月も…健気な愛らしさは変わらず」 魔王へ対抗を宣言したロアを 月と表し、 「本に……再会の刻が楽しみなこと」 再会の時を今から、 待ち遠しく願う愉悦の囁き。 ロアとリデア。 一つの身体、一つの魂に宿る    セイ 二つの性。 まるで、 魔界の空と聖界の空にある 深紅と白銀の二つの月ように 闇を照らす光との邂逅を思い、 「時が満ちるまで…遊んでたもれ」 魔王の意志を抱いたまま、 聖界に留まったネビアスへ向け 聴く者の心を狂わす酷薄な声で、 古の裏切りの徒、名も無き神族。 闇の世界の主は美しく嗤った。  
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