†祷†

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  「“最後の抱擁”しても良いですか?」 兄弟として、 全ての確執の終りと、 別れの挨拶にロアとの抱擁を セキルは求める。 「好きにしろ」 「ありがとうございます」 素っ気ないロアの許しに 嬉しそうな笑顔で、 ロアを抱き締めるセキル。 昔は兄であるロアに 弟のセキルの方が 抱き締められていたけれど、 今では、 兄であるロアを抱き締める側に セキルはなっていた。 小さい頃は気付かなかった、 華奢で小柄な兄の身体。 「兄上」 「何だ」 「兄上って…、」 セキルは何かを言いかけて、 「えぇ……と、止めておきます」 「そうしろ」 ロアからの剣呑な気配に 言葉を謝罪に改める。 そうして、 ふっーと、何気無く、 セキルの脳裏に浮かんだ 目覚めの時に観た夢に押され、 「兄上、大好きです」 弟として、 兄を慕う気持ちを素直に 口にするセキル。 「私もだ」 セキルの腕の中で 兄として応えるロア。 クロアを愛する心は 分からないのに、 弟を想う愛情は理解している ロアの応えに、 セキルは、 不意に抱擁の腕に力を込めると 身を屈め、 「兄上…」 ロアだけにしか聴こえない声で 「いつか…クロアに…兄上の全てを明かして下さい」 セキルが知るロアの偽りを クロアに明かす願いを告げた。  
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