†祷†

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  セキルの腕の中で 息を詰めるロアの気配。 「お願いします」 ロアがクロアへの愛を自覚し、 愛し合う恋人同士として 結ばれる為にも、 応えの返らないロアへ、 セキルは祈りの言葉を重ねる。 他者の望みに従ってしまう 道具の性を持つロア。 勝手でもある自分の思いを 強要しないように、 ただ、未来への祈りの形で セキルは想いを伝え、 ロアの言葉を待たずに、 「それではッ!」 明るい声と笑顔で ロアから離れた。 そのまま、 ロアの唇に触れる、 セキルの唇。 「ん……」 ロアの唇から零れる吐息。 柔らかく、優しく触れ合う セキルからの口付け。 直ぐに離れてしまうが、 完全に不意討ちである その光景に、 「ッッ!?」 瞠目し固まるクロアと、 「…ッ……セキル?」 一瞬、何が起きたのか 分からないロア。 「餞別と云うことで貰って行きます」 セキルは少しも悪びれず、 口付けの意味を朗らかに 告げると、 「じゃぁ、さようならッ!!」 悪戯の成功した子供のように 無邪気に笑い、 聖本殿の短い階段を駆け降りた。  
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